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FLACとは | Free Lossless Audio Codec、可逆圧縮の業界標準

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この記事の要点
  • FLAC は Free Lossless Audio Codec の略で、2001 年に Josh Coalson が開発した完全 OSS の可逆音声圧縮形式
  • 可逆(lossless)なので、エンコード前の WAV と完全にビット単位で一致するデータをデコードで復元できる
  • WAV と比べて約 50〜60 % のサイズに圧縮できる。CD 1 枚(700 MB)は FLAC で 350〜400 MB 程度
  • ハイレゾ配信(96 kHz / 192 kHz、24 bit / 32 bit、5.1 / 7.1 ch)に標準対応し、moraやe-onkyo musicの主力フォーマット
  • Vorbis コメント方式の柔軟なメタタグ(曲名・アーティスト・アルバムアート・歌詞・MusicBrainz ID 等)を持つ
  • マジックナンバーは 66 4C 61 43("fLaC")。ID3v2 タグが先頭にある場合はそちらが先になる

概要

FLAC は 2001 年に Josh Coalson によって開発が始まった可逆音声圧縮(ロスレスオーディオ)形式で、現在は Xiph.Org Foundation(Vorbis、Theora、Opus と同じ団体)が管理しています。Free Lossless Audio Codec の頭文字を取ったもので、特許フリー・オープンソース・ロイヤリティフリーを徹底しています。

「可逆(lossless)」とは、エンコードしてサイズを縮めたデータをデコードすると、元のサンプル列とビット単位で完全に一致する波形が復元できるという意味です。MP3 や AAC のような非可逆圧縮では一度失われた音は二度と戻りませんが、FLAC ならエンコード前の WAV と寸分違わぬデータが取り出せます。CD のアーカイブやマスター音源の配布、AI 学習用データセットなどで重宝されます。

圧縮率は素材によりますが、平均すると WAV の 50〜60 % 程度。Apple Lossless(ALAC)、WavPack、Monkey's Audio、TAK などの他のロスレスフォーマットと比べると、圧縮率はやや劣るものの、ハードウェア対応の広さ、デコード速度の速さ、特許の安全性で頭一つ抜けており、事実上のロスレス標準となっています。

内部構造

FLAC ファイルは以下の構造を持ちます。

+----------------+
| fLaC マジック   |  4 バイト "fLaC" (66 4C 61 43)
+----------------+
| METADATA_BLOCK |  STREAMINFO(必須)
| METADATA_BLOCK |  PADDING
| METADATA_BLOCK |  VORBIS_COMMENT(タグ)
| METADATA_BLOCK |  PICTURE(アルバムアート)
| METADATA_BLOCK |  SEEKTABLE
+----------------+
| FRAME          |  音声フレーム 1
| FRAME          |  音声フレーム 2
|     ...         |
+----------------+

圧縮アルゴリズムは「線形予測 + 残差のライス符号化」を中心に据えています。具体的には、過去のサンプルから次のサンプルを線形予測して、予測値と実測値の差(残差)だけを保存します。残差は実測値より小さい値になるため、エントロピー符号化(ライス符号)でさらに縮みます。サブブロック分割、固定予測子と適応予測子の選択、ステレオ間の差分計算(中央 / サイド変換)など、可逆を保ったまま圧縮率を上げる工夫が幾重にも仕込まれています。

STREAMINFO ブロックには、最小ブロックサイズ、最大ブロックサイズ、サンプリングレート(4 Hz〜655350 Hz)、チャンネル数(1〜8)、ビット深度(4〜32 bit)、総サンプル数、MD5 ハッシュなどが格納されます。MD5 はデコード後の生 PCM のハッシュで、これを照合することでファイル破損の検出が可能です。

主な用途

  • CD アーカイブ:自分の CD をリッピングして長期保存する用途。EAC / dBpoweramp / X Lossless Decoder(XLD)が定番
  • ハイレゾ音楽配信:mora、e-onkyo music、HDtracks、Qobuz、Bandcamp で FLAC が主力。96 kHz / 24 bit、192 kHz / 24 bit、DXD 352.8 kHz / 24 bit などが流通
  • マルチチャンネル配信:5.1ch / 7.1ch サラウンドの FLAC は映画音声・ライブ音源で利用
  • 音声 AI / 機械学習:音声認識・TTS・声質変換などのデータセットを「無劣化で軽く保つ」用途で広く採用
  • 放送局・スタジオの中間保管:マスターは WAV、長期保管は FLAC というワークフローが一般的
  • ストリーミング:TIDAL HiFi、Apple Music ロスレス(中身は ALAC)、Amazon Music HD、Qobuz は FLAC または ALAC でロスレス配信

関連形式との比較

形式可逆圧縮率対応機器備考
FLAC50-60 %◎ 最強OSS、特許なし
ALAC (Apple Lossless)50-60 %○ (Apple 系)Apple Music ロスレスの実体
WavPack (.wv)○ (+ Hybrid)50-55 %ハイブリッドモード(無劣化 + 補正)が独特
Monkey's Audio (.ape)45-50 %圧縮率は高いがデコードが重い
TAK45-50 %×圧縮率優秀だが Windows 限定
WAV無圧縮100 %編集用

FLAC は圧縮率では Monkey's Audio や TAK にやや劣るものの、デコードが軽く、ストリーミング再生・シーク・ハードウェア再生のすべてで安定している点で他を圧倒しています。ロスレス用途で迷ったら FLAC を選んでおけば間違いありません。

編集ツール

  • flac (公式コマンドライン)flac --best input.wav で最大圧縮、flac -d input.flac で展開
  • ffmpegffmpeg -i input.wav -c:a flac -compression_level 8 output.flac
  • EAC (Exact Audio Copy):Windows の CD リッピング定番
  • dBpoweramp:商用の高速一括変換
  • X Lossless Decoder (XLD):macOS の高品質リッピング・コンバータ
  • Audacity:FLAC の読み書きにネイティブ対応
  • foobar2000:再生・タグ編集・変換すべて 1 つで完結(Windows)

注意点

  • iPod / 古い iPhone では再生不可:Apple は長年 ALAC のみで FLAC を拒んでいたが、iOS 11 以降は Files アプリ経由で再生可能になった。古い iPod では ALAC への変換が必要
  • Bluetooth では結局非可逆:FLAC を Bluetooth で再生する場合、SBC / AAC / LDAC / aptX HD など Bluetooth 側のコーデックで再圧縮されるためロスレスは保証されない。ロスレスを楽しむには有線または LDAC 990 kbps + 対応機器が必要
  • ハイレゾ=音が良い、とは限らない:96 kHz / 24 bit はマスタリング品質が良ければ違いを感じやすいが、CD マスターのアップコンバート版は実質 CD 同等
  • 埋め込み画像のサイズ:アルバムアートをそのままアップサンプリングした 4K 画像を埋め込むとファイルが肥大化する。512x512〜1024x1024 px 程度が現実的
  • 圧縮レベル-0(高速・大きい)〜-8(低速・小さい)まであるが、-5(デフォルト)と -8 の差は数 % 程度。普段使いは -5 で十分
  • 編集には向かない:FLAC を波形編集して再保存すると、その都度デコード→編集→エンコードが走り時間がかかる。編集は WAV で行い、最後に FLAC 化する

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